Summer Days

(SEASONS)SummerDays.txt (16:20 2004/12/22)

「・・よっしゃ!!」
演奏が終わった途端、斉藤が叫んだ。
満足そうな笑みを浮かべ、興奮した口調で斉藤は続ける。
「いい感じだよな?な?」

「あぁ、そうだな」
俺は素直な感想を口に出した。

LASというバンドが動き始めてから3ヶ月。
そんな短期間で、ひとつのバンドがこれほど完成に近づけるのは奇跡とも言えた。
斉藤や響のような熟練者がバンドをリードしてくれているのは事実だ。
けれど、それだけでは説明できない一体感を俺達は手に入れていた。

目には見えない信頼が、音となって現れる。その喜びを、俺達は体中で感じていた。
「いけるんじゃないか、学園祭」
俺がそう言うと、響は笑った。
「あったり前ですよ」
いつの間にか、不安は大きな自信に。
寄せ集めだった筈の俺達は、ロックバンドに成長していた。

部室の窓を開ける。
熱気の満ちた部屋にすっと流れ込む、夏の風。
汗で濡れたワイシャツを、静かに冷やしていく。
「お疲れさま、浩樹くん」

「すっごく、カッコ良かったよ」
広音はそう言うと、俺にハンドタオルを差し出してくれた。
「さんきゅ」
受け取ったタオルで、俺は額の汗を拭った。

「皆も・・・ありがとう」
人前で歌う事すらためらっていた俺は、いつの間にか歌が好きになっていた。
リビングに置かれたスピーカーやヘッドフォンでは決して味わえない大音量。
それに合わせて、腹の奥から声を絞り出す。

皆でひとつの音楽を演奏するということ。
同じ時間を共有し、ひとつの曲を作り上げるという事。
その体験は、俺自身を大きく変えた。

「俺は、こんな楽しい事を知らないまま卒業するところだった」

「へへ、感謝しろよ」
斉藤は笑った。

ゆっくりと仲間達の顔を見回す。
そこに居る誰もが、満足そうな笑みを浮かべていた。
「ま、この斉藤右京が集めた面子が悪い筈が無いんだけどな」
小さな部屋で楽器を構える全員が、声を揃えて笑った。

「おっし!15分休憩だ。練習再開は3時15分!!」
時計を確認すると、斉藤は声を引き締める。
「それまで浩樹は、ちゃんと喉休めとけ」
「おう」
「弥恵ちんは、広音ちゃんのキーボード動かすの手伝ってくれ。
 やっぱりドラムの横よりギターの隣の方が雰囲気出るわ」
「はいよ〜」
「響は俺とソロの打ち合わせだ。次の曲はベースソロとギターソロが絡むからな」
「了解ですっ」
「それじゃよろしく!」
歯切れ良い号令を背に、俺は部室を後にした。

南校舎の出口を抜けて、渡り廊下へと降りる。
そこに並ぶ自販機の前には、運動部の連中が座り込んでいた。
野球部のユニフォームを着た面々の中には、見知った顔もある。
「おう、耶嶋ちゃん」
「よう。こうも暑いと野球部は大変だな」
軽い挨拶を交わしながら、自販機でスポーツドリンクを買う。
ちょっと前だと迷わずに缶コーヒーを選んでいたが、最近は事情が違う。
出て行く汗の量が量だけに、自ずとこういう物が飲みたくなる。
よく冷えたスポーツドリンクは、こんな時だと確かに美味かった。

半分ほど一気に飲んだところで、ベンチに腰掛ける。
入れ違いに、野球部がグランドへと戻っていった。
(目指せ甲子園、か…毎年頑張ってるよな)

ふと。
俺は、去年の夏は何をしていただろう、なんて事を考えてしまう。
旅行に行ったりしたか?
何か特別な行事があったか?
(何も、無かったよな・・・)
エアコンのきいた部屋で毎日ゴロゴロしたり、せいぜいゲーセンに行ったくらいだ。

それに比べて、今の俺は毎日が充実している。

一日の練習が終わると、次の部活が待ち遠しいくらいに。
俺は今、バンドを楽しんでいる。

ようやく、夢中になれる物が見つかった気がした。

照りつける陽射。
眩しい光。

(夏ってのは、こんなに良い季節だったか)
缶の残りを一気に飲み干すと、俺は仲間の待つ部室へと向かった。